週明けに価格が飛ぶ、いわゆる「窓(ギャップ)」について、「窓は埋まる」という言い回しは古くから繰り返されています。窓とは、前の取引終了時の価格と次の取引開始時の価格が離れ、チャート上に空白が生じる状態を指します。「埋まる」とは、その後の値動きが前回終値の水準まで戻ることです。
ここで問題になるのは、「埋まる確率は◯%」という数字が、どの通貨ペアの、どの期間の、どんな定義で数えたものか明示されないまま一人歩きしやすいことです。この記事では確率の答えを出しません。自分の手元のデータで数え直すための手順と、前提を変えると結果がどう動くかを整理します。
「窓」と「埋まる」を定義しないと、そもそも数えられない
FXは原則24時間取引であり、週末の中断を挟んで生じる窓は、取引所の立会時間で区切られる株式の日次ギャップとは性質が違います。重要なのは、週末の窓の大きさはブローカーごとに変わりうるという点です。金曜のクローズ時刻、月曜のオープン時刻、提示レートがbidかaskか、サーバー時刻のタイムゾーン(GMTか、夏時間を含むか)で、同じ週でも計測値が一致しません。
「埋まる」の定義も一通りではありません。少なくとも次の点を先に決める必要があります。
- 基準価格:金曜の最終ティックか、金曜最終足の終値か
- 到達判定:ティックでのタッチか、足の高値・安値が基準価格を超えたかどうか
- 期限:月曜中、その週の金曜まで、期限なし
- スプレッド考慮:実際に約定できる側のレートで到達したと見るか、仲値で見るか
期限を「無期限」にすれば、埋まったと判定される割合は構造的に上がります。しかしその数字は、何週間保有したか、その間にどれだけ含み損を抱えたかをまったく語っていません。数字が高く出る定義ほど、実務上の意味が薄い可能性があります。
再現可能な数え方の手順
- データを固定する:通貨ペア、期間(開始年月と終了年月)、時間足、データ提供元、サーバー時刻のタイムゾーンを記録します。あとで読み返したときに同じ集計を再現できることが条件です。
- 週境界を決める:各週の最終足と翌週の最初の足を機械的に抽出します。年末年始や祝日で取引時間が短縮された週を含めるか除外するかも、ここで決めて記録します。
- 窓の大きさを正規化する:pips(価格の最小変動単位に基づく値幅)のままだと、ボラティリティの高い時期と低い時期を混ぜて比較することになります。直近のATR(Average True Range、一定期間の値幅の平均)に対する比率や、週次変動率に対する比率で割った値も併記すると、時期をまたいだ比較がしやすくなります。
- 埋まり判定を実装する:上で決めた基準価格・到達判定・期限に従って、各週に0/1のラベルと、埋まるまでに要した時間、埋まる前の最大逆行幅(MAE:Maximum Adverse Excursion、仕掛け方向と逆に最も動いた幅)を記録します。
- 層別して集計する:全体の平均だけを見ないことです。窓サイズの分位別、上窓・下窓別、年別、ボラティリティ水準別に分けます。
- サンプル数を書く:週次データは1年で約50件しか増えません。10年分でも500件程度です。層別するとさらに減り、各セルが数十件になることも珍しくありません。件数を併記しない割合は読み返す価値が下がります。
前提を1つ変えると、どこが動くか
| 前提項目 | 選択肢の例 | 結果への影響の向き |
|---|---|---|
| 期限 | 月曜中/週内/無期限 | 長いほど「埋まった」割合は上がる。保有期間と最大逆行幅は悪化しうる |
| 窓の最小サイズ | フィルタなし/一定pips以上/ATR比一定以上 | 極小の窓を含めるほど割合は上がりやすいが、取れる値幅はスプレッド以下になりうる |
| 到達判定 | 仲値タッチ/約定側レート | 約定側で判定すると割合は下がる方向 |
| 対象期間 | 直近数年/十数年 | レジーム(相場の局面)の構成比が変わり、数字が入れ替わることがある |
| 通貨ペア | 主要通貨/新興国通貨 | 流動性と窓の発生頻度・大きさが異なる |
| データ提供元 | 業者A/業者B/集約データ | クローズ・オープン時刻の差で窓サイズ自体が変わる |
つまり「窓埋め率」は単一の客観的な数値ではなく、定義の関数です。他人の数字を引用するときは、この6項目がどう設定されているかを確認できないなら、自分の検証の根拠には使わないほうが安全です。
割合が高くても、損益が正になるとは限らない
仮に高い割合で埋まったとしても、損益は別の話です。期待値は「埋まる割合×平均的な利幅 − 埋まらない割合×平均的な損失幅」で決まり、窓埋めを前提とした入り方は構造的に小さく勝って、まれに大きく負ける形になりやすい性質を持ちます。損切りを置かなければ勝率は上がりますが、損失が尾部(分布の端)に集中するだけで、リスクが消えるわけではありません。
さらに週明け直後は、スプレッド(売値と買値の差)が平常時より広がることが一般的で、約定価格が想定とずれる可能性もあります。窓が極端に大きい場合、ロスカット注文が想定価格で執行されず、預託金を超える損失が生じうる点は、各業者のリスク説明にも記載されている事項です。日本の個人向けFXのレバレッジ上限は、金融商品取引法に基づく内閣府令で定められています。制度の詳細は金融庁および各業者の最新の説明で確認してください。
検証では、勝率だけでなく次の指標を必ず記録することをおすすめします。
- 埋まるまでの経過時間の分布(平均ではなく中央値と最大値)
- 埋まらなかったケースの損失幅の分布
- 最大逆行幅(MAE)の分布
- 埋まらなかったケースが時期的に固まっていないか(クラスター性)
機能しにくい相場条件を先に書き出す
「どういうときに外れるか」を先に言語化しておくと、後から都合よく解釈する余地が減ります。構造的に不利になりやすい条件には、たとえば次のようなものが考えられます。
- 週末に新しい情報が入った週:選挙や国際会議の結果、地政学的な事象、中央銀行の緊急対応など。窓が価格の再評価を反映している場合、戻る理由が乏しくなります
- 窓が大きい週:小さい窓と大きい窓を同じ母集団として扱うと、平均が実態を隠します
- 月曜が祝日などで流動性が薄い局面:板が薄く、値動きが一方向に伸びやすくなります
- トレンドが継続している局面:窓が既存の方向と同じ向きに空いた場合、窓埋めは逆張りになります
たとえば次のような場面を想定してみてください。金曜の引け後に想定外の政策発表があり、月曜のオープンが通常の数倍の幅で飛んだ。「いつもは埋まる」という経験則だけで逆方向に入ると、価格が戻らないまま週を通して逆行し続ける可能性があります。これは仮の例ですが、検証時にこうしたケースを除外せず、母集団に含めたまま数えることが重要です。
検証そのものが壊れていないかの確認
データを何度も切り直して「割合が一番高くなる条件」を探す作業は、多重検定の問題を生みます。条件の組み合わせを増やすほど、偶然良く見えるものが出てきます。対策としては、ルールを先に紙に書いてから集計する、期間を前半と後半に分けて結果が一致するか見る、サンプル数が少ないセルの結論は保留する、といった基本的な手続きが有効です。
記録に残すときは、割合の数字より定義・期間・件数・層別の切り口を優先して書いてください。半年後の自分が読み返したとき、再現できないメモは判断材料になりません。
まとめ
週明けの窓について言えるのは、次の点です。
- 「窓埋め率」は定義依存の数値であり、期限・最小サイズ・判定方法・期間・通貨ペア・データ提供元で変動する
- 他人の数字を使う前に、その6つの前提が示されているかを確認する
- 割合が高くても期待値が正とは限らず、埋まらなかったケースの損失分布と最大逆行幅を同時に見る必要がある
- 週末のイベント、流動性の薄い局面、トレンド継続局面は、前提が崩れやすい条件として先に書き出しておく
この記事は特定の売買手法や業者を推奨するものではなく、検証の枠組みを整理したものです。相場には元本を失うリスクがあり、週明けの急変時には損失が預託金を超える可能性もあります。制度や各社のルールは変更されることがあるため、最新の情報は金融庁および取引業者の公式な説明で確認し、最終的な判断はご自身の責任で行ってください。
この記事は情報の提供を目的としたもので、特定の金融商品の売買をすすめるものではありません。売買の判断は、ご自身の責任で行ってください。(運営者情報)