荒れた日を数値で切り分けるATR記録法

利食安男「荒れてる気がするだけじゃダメなのか」

この記事の結論を先に

「今日は荒れている」を数字にするなら、ATR(Average True Range/平均的な値幅)の生の値ではなく、当日のATRを過去一定期間のATRの中央値で割った「比」で見るのが扱いやすい方法です。生の値は通貨ペアや価格水準で桁が変わり、日をまたいで比較しにくいからです。そして閾値は誰かの決めた数字を借りるのではなく、自分の記録から分布を見て決めます。

やることは単純で、1日1行、同じ時刻区切りで数値を書き足していくだけです。この記事では、ATRが何を測っている指標なのか、何を記録すれば後から使えるのか、そしてこの測り方が機能しない相場条件はどこかを順に整理します。なお以下は手法の検証手順の話で、売買の推奨ではありません。測った結果をどう使うかは各自の責任範囲です。

ATRとは何を測っている指標?

ATRは、J. Welles Wilder が著書「New Concepts in Technical Trading Systems」で提示した指標群のひとつで、値動きの「大きさ」だけを取り出すために作られています。方向(上か下か)は一切含みません。ここが最初の誤解ポイントです。

計算の土台は True Range(TR/真の値幅)です。ある足について、次の3つのうち最大の値を取ります。

  • 当日の高値 − 当日の安値
  • |当日の高値 − 前日の終値|
  • |当日の安値 − 前日の終値|

2番目と3番目が入っているのは、窓(ギャップ)を値幅として勘定するためです。前日終値から飛んで始まった日は、日中の高安だけ見ると静かに見えてしまいます。TRはそれを拾います。

ATRはこのTRを平均したものですが、平均の取り方に流派があります。

平均方法 特徴 注意点
Wilder の平滑(RMA) 原著の方式。過去の値が指数的に効き続ける 同じ「期間14」でも単純移動平均より反応が鈍い
単純移動平均(SMA) 直近N本を等しく平均。計算が追いやすい N本前の値が外れた瞬間に段差が出る
指数移動平均(EMA) ツールによってはこちらが既定 Wilder版と数値が一致しない

期間はWilderが示した14が広く既定値として使われていますが、これは「正解」ではなく出発点です。重要なのは、どの平均方法と期間を使ったかを記録に残すことです。後で数値が合わないときに、相場が変わったのか設定が違うのかを切り分けられなくなります。

「荒れている」はどう定義する?

ATRの生値、たとえば「今日のATRは◯pips」という数字は、そのままでは判定に使えません。理由は3つあります。

  • 通貨ペア間で比較できない:値動きの大きさが違うペア同士を同じpips基準で並べても意味がない
  • 時期をまたぐと基準がずれる:数年単位で見れば、同じペアでも平均的な値幅の水準は動く
  • 価格水準の影響を受ける:同じ変動率でも、価格が高いときのほうがpipsは大きく出る

そこで、比に直します。使いやすい形は次の2つです。

  1. ATR比 = 当日のATR ÷ 直近N日のATRの中央値。1.0が「いつも通り」、1.5なら「いつもの1.5倍の値幅が出ている」
  2. パーセンタイル順位 = 直近N日の中で当日のATRが何%の位置にいるか。分布が歪んでいても扱える

平均ではなく中央値を使うのは、ATRの分布が右に裾を引きやすいためです。一度の急変動が平均を押し上げると、その後しばらく「いつも通り」の基準が歪みます。中央値はそれに引きずられにくい。

N(比較する期間)は、短くすると直近の状態に追随し、長くすると長期的な位置が分かります。両方並べて記録しておくと、「じわじわ上がってきた」のか「今日だけ跳ねた」のかが区別できます。

日ごとに何を記録する?

記録は後から集計できる形で残すのが前提です。1日1行、列は固定。最低限、次のあたりを置いておくと使い回しが利きます。

列 内容 なぜ要るか
日付 足の区切り基準となる日付 曜日別・月別の集計の軸になる
曜日 月〜金 月曜と金曜で性質が違うかを確認する
通貨ペア 記録対象 ペアごとに閾値が変わる
当日TR その日のTrue Range ATRの元データ。検算に使う
ATR値 設定した期間・平滑方式で算出 比の分子
ATR比 当日ATR ÷ 直近N日の中央値 荒れ具合の主指標
当日の高安幅 高値−安値のみ ギャップ由来かどうかの切り分け
ギャップ 始値−前日終値 窓で膨らんだ日を識別する
イベント有無 重要指標・会合など 説明のつく荒れかを判定
一言メモ 自由記述 数字に出ない事情を残す

イベントの列は、日付だけでなく「何のイベントか」が分かる粒度にしておくと後で効きます。中銀の会合日のように、同じ日のなかで性質の違う事象が複数ある場合は分けて記録する考え方を中銀発表日は声明と会見を別イベントとして測るで扱っています。

そして、記録を始める前にデータの仕様を文章で決めておくこと。どのデータソースか、日足の区切りは何時か、サマータイムをどう扱うか。この部分が曖昧だと、数か月後に集計したときに前半と後半で基準が違うという事故が起きます。仕様の決め方は検証のブレを潰すデータ仕様7項目に整理があります。

閾値はどう決める?

「ATR比が◯以上なら荒れている」の◯は、外から持ってくるものではなく、自分の記録の分布から決めます。手順は次の通りです。

  1. ある程度の日数が溜まるまで、判定せずに記録だけ続ける
  2. ATR比の分布をヒストグラムか並べ替えで見る
  3. 上位何%を「荒れた日」と呼ぶかを先に決める(たとえば上位20%、など自分で選ぶ)
  4. その%に対応するATR比の値を閾値として書き留める
  5. 閾値は固定し、一定期間ごとに見直す。見直した日付と旧い値も残す

ここで大事なのは、閾値を決めた日より後のデータで、その閾値が機能したかを確認することです。分布を見て決めた閾値を、その分布を作った同じデータで評価しても、当たって当然です。決めた日を記録に書いておけば、後から前後を切り分けられます。

仮の例で手順のイメージを示すと、次のような場面です。ある日のATR比が1.8、決めてあった閾値が1.4だったとします。このとき記録に書くのは「荒れ日に該当」という事実と、高安幅とギャップの内訳、そしてイベント列です。ギャップがほぼゼロで日中の高安だけで膨らんでいるのか、窓で一気に飛んだ後は静かだったのかで、同じATR比1.8でも日の中身はまったく違います。この内訳を残していないと、後から見返したときに何も分かりません。

この測り方が機能しない条件は?

ATR比は万能ではありません。先に穴を把握しておくほうが、後の誤読を防げます。

  • 方向を一切教えない:ATRが拡大していても、トレンドが出ているのか往復しているのかは区別できません。大きく動いて戻った日と、一方向に伸びた日は、TRが同じなら同じ数字になります
  • ギャップで膨らんだ日を区別できない:TRの定義上、窓は値幅に入ります。だからこそ高安幅とギャップを別列で記録します
  • 時間帯の偏りが潰れる:日足のATRは1日を1つの数字にまとめます。欧州時間だけ荒れて他は静かだった日と、終日まんべんなく動いた日が同じ数字になり得ます。時間帯別に見たいなら、日足とは別に時間帯別のレンジを記録する必要があります
  • 流動性が薄い日に誤作動する:年末年始や大型連休のように参加者が少ない時期は、値幅が小さくても執行の条件は悪化します。ATRが低い=穏やかで取引しやすい、とは限りません。この点は薄商いの日は値幅でなく執行コストを見るで別の角度から扱っています
  • 平滑の遅れ:Wilder平滑のATRは過去を引きずるため、急変の初日は数字がまだ上がりきりません。当日のTR単体と並べて見ると、立ち上がりのズレが分かります
  • 業者ごとに日足の区切りが違う:同じ通貨ペアでも、データ提供元によって日足の開始時刻が異なれば高安とギャップが変わり、ATRも変わります。ソースを途中で変えるのは避けるべきです

データ側の不整合も実務上の障害になります。欠損日、重複行、時刻のずれは、気づかないまま集計すると結論をまるごと壊します。この手当ては検証データの欠け・重複・時刻ずれを潰す手順に手順があります。

まとめ

ATRを日ごとに記録する目的は、「今日はなんとなく荒れている気がする」という感覚を、後から検証できる数字に置き換えることです。ポイントを整理します。

  • ATRは値幅の大きさだけを測り、方向は含まない。TRの定義上、ギャップも値幅に算入される
  • 生値ではなく、直近N日の中央値に対する比、またはパーセンタイル順位で見る
  • 平滑方式(Wilder/SMA/EMA)と期間、データソース、日足の区切り時刻を記録に明記する
  • 記録列は、ATR比だけでなく高安幅とギャップを分けて持つ。内訳がないと後から読めない
  • 閾値は自分の分布から決め、決めた日付を残し、その後のデータで機能を確認する
  • 時間帯の偏り、薄商い時の執行条件、平滑の遅れは、ATR比だけでは見えない

この記録自体は売買判断を出しません。出すのは「今日は普段と比べてどの位置か」という一つの座標だけです。その座標を何に使うか、あるいは使わないかは、別途自分の検証で確かめる領域です。相場に絶対はなく、過去の分布が今後も続く保証はありません。閾値は定期的に見直し、見直した履歴も併せて残しておくことをおすすめします。

この記事は、AI で下書きを作り、益山康秀(運営者)が内容を確認して公開しています

この記事は情報の提供を目的としたもので、特定の金融商品の売買をすすめるものではありません。売買の判断は、ご自身の責任で行ってください。(運営者情報)

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