結論から書きます。一度に持つポジションの数は「何本まで建てられるか」ではなく、「独立したリスクに換算して何本分か」で決めるのが扱いやすい考え方です。相関の強い通貨ペアを同じ方向に3本重ねると、見た目は3本でも、口座が負っているのは1本分の約2.8倍の変動幅になることがあります(後述の計算条件のとき)。つまり枚数を増やしたつもりがなくても、分散したつもりで実質的にサイズを増やしている、という事態が起きます。この記事では、その重なりをどう測り、何を上限として記録・検証するかを整理します。
なぜ別の通貨ペアでもリスクが重なるのか
通貨ペアは2つの通貨の相対価格です。EUR/USDの買いは「ユーロ買い・ドル売り」、GBP/USDの買いは「ポンド買い・ドル売り」で、どちらにも「ドル売り」が共通して含まれます。両方を同時に持てば、ドルが全面的に買われた局面では両方が同じ方向に動きます。銘柄は別でも、原因は1つです。
ここで使う言葉を整理しておきます。エクスポージャーとは、ある通貨に対して口座が実質的に取っている持ち高のことです。EUR/USD買い1ロットとGBP/USD買い1ロットなら、ドルのエクスポージャーは売り2ロット相当になります。ポジション本数ではなく、この通貨単位の合計を見ると重なりが見えやすくなります。
相関係数とは? どう測るのが妥当か
相関係数は、2つの値動きがどれだけ同じ方向に動いたかを-1から+1で表した統計量です(一般にはピアソンの積率相関係数)。+1に近いほど同方向、-1に近いほど逆方向、0付近なら関係が薄いことを示します。
測るときの前提を自分で決めておく必要があります。最低限、次の4つです。
- 対象:どの通貨ペアの組み合わせか
- 足:日足か1時間足か。足が変われば値も変わる
- 期間(窓):直近20本か60本か。ローリング(窓をずらしながら連続計算する方式)で推移も見る
- 入力:価格そのものではなく対数リターン(終値の比の自然対数。期間ごとの変化率に近い値)を使う
価格水準のまま相関を取ると、たまたま同じ方向に長期トレンドが出ていただけで高い値が出ます。リスクの重なりを見たいなら変化率で測るのが筋です。なお「この組は何以上」といった具体的な数値は、期間と足で変わるため、他人の数字を借りず自分の検証データで出すことをおすすめします。データ側の前提を揃える話は検証のブレを潰すデータ仕様7項目で整理しています。
実質で何本分か、どう計算する?
同じリスク量のポジションをn本、どの組み合わせも相関ρで持ったと仮定すると、合計の変動幅(標準偏差)は1本あたりの √(n + n(n-1)ρ) 倍になります。これは分散の加算から出る数式上の関係で、特定の相場の実測値ではありません。各ポジションのリスク量が等しく、相関が一定という単純化した前提での目安として見てください。
| 本数 \ 相関ρ | 0.0 | 0.3 | 0.5 | 0.8 |
|---|---|---|---|---|
| 2本 | 1.41倍 | 1.61倍 | 1.73倍 | 1.90倍 |
| 3本 | 1.73倍 | 2.19倍 | 2.45倍 | 2.79倍 |
| 4本 | 2.00倍 | 2.74倍 | 3.16倍 | 3.69倍 |
読み方はこうです。相関0なら4本持っても単一の2.00倍にしか増えませんが、相関0.8では3.69倍、つまりほぼ4本を単純に足したのと変わらない。分散の効果がほとんど消えています。逆に、独立なリスクに換算した本数は n /(1+(n-1)ρ) で近似でき、n=3・ρ=0.8なら約1.15本。3本建てているのに、実質は1本強の分散しかないという意味です。
同時保有数の上限はどう決める?
本数そのものを「3本まで」と決めても、中身が全部ドル売りなら意味がありません。決め方としては、次の順序が検証しやすいはずです。
- 1回の最大許容損失を先に置く(口座残高に対する割合など、自分の基準で)
- 同時に動きうる全ポジションの合計が、その許容額を超えないようにサイズを割り振る
- 通貨ごとのエクスポージャー上限を決める(例:ドル方向の合計は単一ポジション◯本分まで、という形)
- 相関の高い組を1つのクラスタ(束)として数える。同クラスタ内は合計で1枠扱いにする
クラスタ分けは、相関係数のほか「どのイベントで同時に動くか」という見方でも作れます。ドル指標で動く束、資源国通貨の束、円の避難需要で動く束、といった区分です。リスクオン・オフという切り口を数値で確かめる手順はリスクオン・オフは一致率で確かめるで扱っています。
また、サイズは相場の荒さでも変わります。同じ本数でも、変動が広がった日には合計リスクが膨らみます。荒れた日を数値で切り分けるATR記録法のように変動幅を記録しておくと、本数の上限を固定値ではなく条件付きで置けるようになります。
この考え方が機能しない相場条件
相関を使った枠組みには、はっきりした弱点があります。先に知っておかないと、安全を確認したつもりで事故を起こします。
- 相関は時間とともに変わる:過去60日で低かった組が、翌週に高くなることがある。推定値は常に過去の要約で、将来の保証ではない
- 急変時に相関が1に寄りやすい:市場全体が一方向に動く局面では、平時の分散効果が失われる傾向が指摘されます。この性質こそが最も痛い場面で効いてくる
- 個別要因では逆に壊れる:特定国の中央銀行発表や政治イベントなど、その通貨だけに効く材料では、高相関だった組が別々に動く。逆相関を当て込んだ「ヘッジのつもり」も同様に崩れる
- サンプル不足:短い窓の相関は推定誤差が大きい。20本程度の窓で出た値を確定値のように扱わない
- コストが本数に比例する:分散のつもりで本数を増やすと、スプレッドや約定ずれの支払い回数も増える
対処としては、相関を「サイズを増やす根拠」には使わず、減らす根拠にだけ使うという非対称な運用が現実的です。相関が低いから枚数を足す、ではなく、相関が高いから束ねて減らす、の方向でのみ適用します。
記録して検証する項目
検証可能な形にするには、エントリーごとに次を残しておくと後から集計できます。
- 建てた時点の同時保有本数と、クラスタ換算の枠数
- 通貨別エクスポージャー(ドル、円、ユーロなどの合計方向と量)
- その時点で使っていた相関の推定値と、算出の前提(足・窓の本数)
- 決済後の損益と、同時保有していた他ポジションの損益
集計の軸は「本数別の勝率」ではなく、本数別・クラスタ数別の損益のばらつきと最大ドローダウン(累積損益が直近高値からどれだけ落ち込んだかの最大値)です。勝率は本数とあまり関係しませんが、ばらつきは明確に効きます。記録の器そのものは特別なものでなくてよく、取引記録は表計算で足りる──続く項目の決め方で触れた範囲で足ります。
まとめ
一度に持つポジション数の問題は、本数の上限値を決める話ではなく、重なりをどう数えるかの話です。相関が高い組は分散にならず、数式上は3本・相関0.8で単一の約2.8倍、独立換算では1.15本程度にしかなりません。だから、通貨単位のエクスポージャーで数え、高相関の組はクラスタとして1枠に束ね、リスク予算から逆算してサイズを割る、という順序になります。
同時に、相関は変化し、急変時には分散効果が消えやすいという前提を忘れないでください。推定値を信じてサイズを増やす方向には使わず、減らす方向にだけ使う。そして自分のデータで、足・期間・対象を明記して測り直す。ここに書いた枠組みも、あなたの手法と口座条件では当てはまらない可能性があります。最終的な判断と結果の責任は各自にあり、相場には常に損失のリスクがある点を踏まえて検証してください。
この記事は、AI で下書きを作り、益山康秀(運営者)が内容を確認して公開しています
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